Pagoda-San

 

にわかにはしんじがたい話です。

もしかすると、ツボが話した、というのはウソで、

パゴダさんの作り話やもしれません。だって、ツボは、

パゴダさんにしか話さないのです。

そもそもパゴダさんってなにもの?


パゴダ・ハウスとはパゴダツリー(エンジュ)の大木があるから。

(英名でパゴダツリーはおおまかにエンジュの木をさすそう。

仏塔=パゴダのそばに植えられていること多いからとか)

いつのまにかそうよばれるようになりました。パゴダみたいにとんがった家の形、

エンジュの木かげ、昼間の月、やまない風…連想です。

ですからもちろん、パゴダさんは仮の名です。


家主より

家主について

小柏 香

こがしわかおり

ある日、貸家の札をみて、たずねてきたひと。

それがパゴダさんでした。

家主はなかなか借り手がつかなかろうと

おもっていましたから、大よろこび。

家は古いけれどわるくはない、でも問題がひとつ。

それは…家じゅうツボだらけだということ。

それとパゴダハウスについて〜しょうこりもなく家主から

もとはといえば、旅人のわすれもの

ツボひとつ。

ところがツボはいつのまにか、

ふえにふえて、

ツボツボツボツボだらけ!

どうしたわけでしょう。

家主はとほうにくれました。

そこで貸し家札に書いたのは。

〜貸家 日あたりよし ただしツボだらけ 

「お安くします」と書きそえて。


パゴダさんは、人ひとり、

ネコいっぴき、

カラスいちわの暮らしだから

かまやしません、といいました。

「いろいろしまえて、べんりそうだし」とも。


そうしてひっこしてきた晩。

パゴダさんが息せききって、

あらわれました。ほっぺたをあかくして。

「ツ、ツボが」

聞くところによると…

1968年生。茶畑いっぱい武蔵野丘陵あたりに育つ。絵本や童話など、おもにこども向け本の仕事。ブックデザイン・イラスト。日本画を師に学ぶも、ほぼ独学。『せんたくかごのないしょのはなし』(あかね書房)、『森のポストをあけてごらん』(ポプラ社)、『はくさいぼうやとねずみくん』(新日本出版社)、『くろねこマーリン』(ティルナノーグ出版)、『おうちずきん』(文研出版)、『料理しなんしょ』『童話集・白いおうむの森』(偕成社)、『ツツミマスさんと3つのおくりもの』『ちいさなおはなしやさんのおはなし』(小峰書店)、『ダジャレーヌちゃん 世界のたび』(303BOOKS)、詩集『だれも知らない葉の下のこと』(四季の森社)、『魔女のレッスンはじめます』(出版ワークス)、『チキン!』(文研出版)、詩集『ぼくたちはなく』(PHP研究所)、『ロップのふしぎな髪かざり』『わらうきいろオニ』、月刊絵本『はれのひさんぽ』、『やねうらホテル』他もろもろ、ブックデザインは『日本の生きもの図鑑』『たまゆらさん』『おつきさんのぼうし』『あ、はるだね』『クジラにあいたいときは』『ようちえんのおひめさま』『せんそうしない』『カタカタカタ おばあちゃんのたからもの』『あのねあのね』シリーズ、「今森光彦の切り紙の本」シリーズ、『うまれてきてくれてありがとう』『シルクハットぞくはよなかのいちじにやってくる』「どーんとやさい」シリーズ、「すみれちゃん」シリーズ、「ちいさなやさいえほん」シリーズ、『雪窓』『さいでっか見聞録』『六月のリレー』『コロッケくんのぼうけん』『おひさまとおつきさまのしたで』など.。

夜おそく、かたづけものをしていたパゴダさんは、

ツボから、オカシナ音がきこえてくるのにきづいたのだそうです。

おそるおそるツボのおなかに耳をあててみると…なんと、

ツボはぷつぷつと、なにかしゃべっています。


耳をすますと、たいていのツボは、「きょうはウグイスがないていたね」とか、

「チーズを焼くとこうばしいね」なんて、たわいない話。

でも、ときには、奇想天外冒険の話だったり、おばあさん?から

聞いたよ、などといって、古い森の言いつたえも。


それからというもの、パゴダさんは、仕事をおえて

遅い晩ごはんを食べると、ツボのそばにすわるのが

なによりの楽しみになっています。話すツボはひと晩にひとツボだけ。

今日はどのツボにしよう、どんな話が聞けるかな…とかんがえると、

仕事のつらさもきになりません。


パゴダさんは、聞いた話を書きとめておくことにしました。

話すあてがあるわけではなく。どちらかといえば、

人みしりでしたし。家主にだって、まだほどほどのおあいそで。

家主がお家賃のことなどで、たまにたずねるようになると、

パゴダさんは、ついでかのように

ツボから聞いた話を、メモをめくりめくり話してくれるようになりました。


パゴダさんほどひかえめでもなく、話好きの家主のせいで、

だんだんとツボの話を聞くなかまがふえていったのは、

とうぜんのことといえばとうぜんでした。